私は20年にわたり、松戸市役所とともに高齢者虐待防止に取り組んできた。
その取り組みの中で、8050問題(80代の親と50代の子が共存する家庭の課題)に関連する高齢者虐待事例(80代の親に対して50代の子がネグレクトや暴力を行う例)に、頻回に遭遇してきた。
それらの50代の子の多くが障害(たいていは軽度の知的障害、軽度の精神障害、または軽度の発達障害)を有している。それらの子の障害は、多くの事例で、既に20歳前後には顕在化しているが、当該障害者はたいてい親の庇護下に生活するため社会的には顕在化しないままになってしまう。つまり、8050問題といっても、その30年前に、その子の「就労能力障害」「対人関係能力障害」「生活能力障害」として現れているのである。つまり、本質的には、30年前の「5020問題」という支援課題である。
理想を言えば、「5020問題」を発見し、障害のある子を支援すれば、8050問題になる前に、高齢者虐待の予防ができる可能性が高い。つまり、高齢者を担当する行政部署を超えた支援が、8050問題としての高齢者虐待予防に必要なのである。つまり、これは高齢者虐待の予防であるが、障害者福祉の課題である。
在宅ケアに携わる支援者にぜひお願いしたいのは、「5020問題」を発見した時、支援を開始してほしいことである。障害のある20代の若者が、「就労能力障害」「対人関係能力障害」「生活能力障害」を呈しているとき、障害福祉につなぎ、支援を開始してほしいのである。それは、その若者の本質的な人生の支援であるが、ひいては、30年後の高齢者虐待の予防活動であると私は信じる。
このように、虐待の本質的予防には、行政の縦割りを超えた年齢横断的・対象横断的な取り組みが必要である。児童虐待の予防については、改めて別途お話ししたい。 (和田忠志)