2025.4.10 危険な労働現場

在宅医療・在宅ケア現場は危険な労働現場である
 病院看護師に比較して、訪問看護師は多くの危険にさらされている。ホームヘルパーは、施設で働くケアワーカーよりも、多くの危険にさらされている。
第一に、密室性による「利用者や家族からの暴力」「性的な被害」、がある。第二に、「交通事故」は在宅ケア特有の労働災害である。第三に、室内犬に噛まれるなどの動物事故も多い。注射針を扱う医療従事者では「針刺し事故(血液体液暴露事故)」を生じたときに、病院医療従事者に比べて保護されていないことが多い。在宅特有の課題ではないが「ケアによる腰痛などの身体損傷」も看過できない。これらは、すべてが労働者の深刻な身体的・心理的損傷を生じうる深刻な課題である。このため、「訪問だけはやりたくない」と考える看護師・介護職も存在する。私はこの問題を15年以上前からあちこちで述べてきたが、専門職団体や公的機関でも、残念ながら十分な取り組みが行われていない。
在宅医療・在宅ケアは国を挙げて推進されてきたが、在宅医療・在宅ケアの「光」の部分だけを語り、影の真実を見ないのは、「真の在宅医療・在宅ケア推進」とは、いえないであろう。これらを放置しては、在宅フィールドが「先進国にありながら遅れた労働現場」になることを危惧する。
埼玉県で医師が殺害されてからハラスメントの問題が急に取り上げられるようになった。医師が殺されなければ大きな話題にならなかったことは痛恨である。また、この事件を契機にハラスメントが話題になると、ハラスメントだけがクローズアップされ、他の労働災害が話題にされないことが、これまた残念である。腰痛などの身体損傷に関しては、日本ノーリフト協会などの活動がしだいに普及しているが、なお、非常にマイノリティである。私は、このような労働災害を乗り越えることが、今後の在宅ケア推進の要諦の一つだと信じる。
 事業所の管理者や専門職団体は、在宅医療・在宅ケア従事者が安全に業務できるように、これらの事項に関心を持ち、対策の方策をもつべきであると思う。
 「在宅医療・在宅ケアは楽しい、やりがいのある現場だよ」と考えて、在宅医療・在宅ケア現場に人を誘う従事者は多いであろう。加えて、「在宅医療・在宅ケアは、安全で、あなたが生き生きと働ける現場だよ」と言いたいものである。
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